影踏みシティ

影踏みシティ (竹書房ゼータ文庫)

影踏みシティ (竹書房ゼータ文庫)

〝行こう、ケータ〟


素晴らしい!


全編通して傑作ですが、読後感のさわやかさ、「あぁいい読書をしたなぁ…」という満足感がたまりません。
あらいりゅうじと聞いて真っ先に思い浮かんだ作品が祭紀りゅーじの著作だったりするダメ読者だったことを猛烈に反省しております(^^;
あらいりゅうじと言えば、魔法の用心棒ミオ!や銀河観光旅館を読んで知り、いかにもライトノベルな設定なのに、なぜかシリアスなシーンがグッと印象に残る、文章力のある作家だと漠然と考えていたんですが、まさかこれほどとは!

緩やかな下り坂に移ると、徐々に開き始めた暁の空を楽しむように速度を落とす。
たった一筋の光が世界を塗り替えていくことに、慶太は子供のように驚いていた。
坂道の下にはまだ眠りを貪っている小さな町が見える。その家々の屋根が輝いて、白い壁がオレンジ色に染まったかと思うと、町全体が鮮やかに色づいていく。
まだ人影のない静かな町。
そににバイクで入っていくことは、まだ誰も踏み入れていない新雪に足跡を付けるような、不思議な胸の高鳴りがあった。

夜明けの描写の1コマ。
自分もいっしょに旅に出ているかのように光景が目に浮かぶ。
それはとてもとても美しい景色。
この風景描写の美しさは終始素晴らしく、「旅」をモチーフとしたこの作品の性質を強く感じさせてくれる。
主人公慶太の素直な感性による思い、相棒のバイクに憑いている幽霊少女リオの開けっぴろげな明るい性格とで交わされる会話の数々、そして各章で出会う人々の想い。


この作品は連作短編の構成になっていて、1章で一つの場所の話が完結しているんだけど、そのどれもが心に残る良い話で。「鉄橋が哭いている」では涙がにじみました。


唯一納得いかないのは、もくじ欄でリオが制服着てケータが驚いてるイラスト。これ作品の雰囲気を壊してるようにしか…。無いようが良かったです。


それでも、今年読んだラノベでは最高傑作の部類。
何かの縁でここを訪れたラノベ読者の方、ぜひご一読をオススメします。




余談
この作品、竹書房のゼータ文庫から出ているのだけど、今回初めてゼータ文庫の本を買いました。
ページ数の割りに値段がちょっと高いけど、紙質はなかなか良いね。
あらいりゅうじを引っ張ってくる辺りにもセンスを感じる。
地味だけど良いレーベルなのかも。